プリンや茶碗蒸しはシンプルながらも難しい料理です。

カスタードプリンや茶碗蒸しは希釈された卵液を加熱することにより固めています。タンパク質は温度が低すぎれば固まらず、高すぎれば食感が悪くなってしまいます。そのため「85℃で36分蒸し上げる」「90℃で12分蒸し上げる」などのようにシビアな温度管理が求められることになります。

適切な温度管理で作られたプリンや茶碗蒸しは驚くほどに美味しい仕上がりになります。

カヤカヤ

今回の記事は次のような人におすすめ!

  • カスタードプリンや茶碗蒸しの加熱が苦手。
  • 卵液の凝固温度(熱変性温度)を知りたい。
  • 卵のタンパク質は加熱温度によりどのように変化するのか?

卵の熱凝固温度は55~80℃です。

卵に含まれているタンパク質は加熱により変性(折りたたまれていたたんぱく質のアミノ酸鎖がほどけて互いに結合しあうことで連続した網状構造を形成すること)が起こります。変性温度はタンパク質の種類により異なりますので、卵は55~80℃の範囲において徐々に特性を変えていくことになります。

卵料理が温度管理にうるさいのは調理温度が美味しさに直結するためです。

卵白と卵黄の温度による変化は?

卵の凝固温度は約80℃です。

そのためカスタードプリンや茶碗蒸しは中心温度が80℃に達するように調理されます。温度が低すぎれば固まりませんし、高すぎれば(タンパク質同士の結合が強くなりすぎることにより水分が絞り出されて)口あたりが悪くなります。

卵白と卵黄は以下のように変化します。

卵白の凝固状態 卵黄の凝固状態
55~57℃ わずかに白濁しはじめる
60~65℃ 乳白色の柔らかいゼリー状になる
65~70℃ 白いゼリー状になる
水溶性タンパク質が分離する
粘りのある軟らかい糊状になる
75℃以上 弾力のあるゴム状にしっかり硬くなる
75~80℃ 完全に凝固する

この特性は多くの料理に利用されています。

温泉卵(温度卵)をイメージしてもらえば分かりやすいかと思います。温泉卵は68℃前後の温度で20~30分ほど湯煎して作られています。これにより変性温度の低いたんぱく質だけが熱凝固して卵白はゼリー状になり卵黄は軟らかい糊状になります。

ゼリー状の卵白に透明の液体が含まれているのは変性温度の高い水溶性たんぱく質(オボアルブミン)が分離されるためです。

調味料や希釈による凝固温度の変化は?

凝固性は調味料や希釈割合の影響を受けます。

身近なところではゆで卵やポーチドエッグです。ゆで卵は卵を茹でる際の水にお酢を加えることにより卵殻が割れても卵白が固まることで中身が飛び出しにくくなりますし、ポーチドエッグも湯にお酢を加えておくことで形良く仕上がりやすくなります。

お酢や食塩には熱変性温度を下げる働き(タンパク質が凝固しやすくなる働き)があり、希釈や砂糖には熱変性温度を上げる働き(タンパク質が凝固しにくくなる働き)があります。

凝固温度 働き
お酢
(酸)

下がる
pHが下がるとタンパク質同士の負の電荷が弱まる
食塩
下がる
食塩が溶けることでタンパク質の電荷が中和される
希釈
上がる
タンパク質同士に距離ができて結合しにくくなる
砂糖
上がる
タンパク質分子がショ糖分子に囲まれるために結合しにくくなる

ちなみにお酢や食塩が料理の仕上がりを硬くすることはありません。

お酢や食塩をタンパク質が早く固まることになります。そのため「料理が硬くなってしまうのでは?」と誤解されることもありますが、実際に加えずに加熱した場合よりも軟らかく仕上がります。これは低い温度で熱凝固させることによりタンパク質はゆるく結合した状態になるためです。

また柔らかく仕上がるのにはpHや塩溶性タンパク質の存在も関係しています。

まとめ・カスタードプリンや茶碗蒸しの凝固温度は?

カスタードプリンや茶碗蒸しは約80℃で固まります。

卵の熱変性温度は55~80℃ですが、牛乳やだしで希釈されていることや(カスタードプリンには)砂糖が添加されていることにより80℃まで加熱することが推奨されています。そのためには「85℃で36分」や「90℃で12分」などのようにシビアな温度管理が必要になります。

プリンや茶碗蒸しの難しさは加熱時の温度管理にあります。